国際社会がタリバンをテロリスト指定するのは、なぜ間違っているのか?【中田考】
『タリバン 復権の真実』をなぜ私は著したのか?
■タリバンによる「バーミヤンの石仏破壊」の真意
それについて、当時書いたものがあるので、少し長くなりますが引用転載しましょう。最初は関西学院大学のキリスト教と文化研究センターでの講演です[注1]。
バーミヤンの石仏の破壊について日本でもずいぶん抗議したわけですが、あれもイスラーム法的にいうと、そもそも報道自体の枠組みが非常に私は間違っていると思います。というのは、あれを他宗教に対する弾圧あるいは迫害とみるというのは、イスラーム法の立場からすると非常にばかばかしい話です。イスラームでは先程いいましたようにズィンミー[注2]あるいはムスターミン[注3]については権利が守られます。それは生命、財産、信仰、名誉ですが、そういう意味ではイスラームでは異教徒の権利を守っています。ではバーミヤンの仏像というのはなんだったのかというと、あれは要するにイスラームは法で考えますから、守るべき法益があれば守るのですが、あそこには守るべき法益がないのです。つまりあれは誰のものでもないからです。単純な話です。あれは誰のものかということですね。あの仏像は石仏[注4]ですから山なんですね。イスラーム法では財産は私有財産と共有財産と国有財産に分かれますけれど、山は国有財産になります。国有財産というのはその国の統治者、行政権者の処分下にあります。個人のものではありません。あれは国有財産ですから公共の場にあります。公共の場にあるものというのはイスラーム公法に従いますから、当然石仏、偶像というふうに判断すれば、行政権者が破壊する。そこにはどこにも守るべき法益がないわけです。という場所なんです。イスラーム法で考えれば非常に単純な話ですね。あれはターリバーン政権が自分の支配下にあるもの、それはイスラーム法では偶像というものはそもそも財というふうにみなされません。というのはこれは例えばイスラーム教徒にとっては、ご存知だと思いますが、豚、あるいはお酒は財産ではないんですね。あれはごみなんです。ごみというか要するに財産的価値がないんですね。ですから法益が守れないんですね。それと同じなんです。偶像というのも同じようなものとして、そもそも財産ではないのです。そういうことであって、あれは破壊されたんですね。破壊しないという選択肢ももちろんありました。破壊するにしろ破壊しないにしろ、それは行政の対応の余地にありますので、どちらでもよかったのですが、ターリバーン政権は破壊した、それだけの話なんですね。というところを、あれを一体誰のものかということを議論しないままに、破壊するのはおかしいという議論をしている。しかもそれが宗教に対する非寛容という形で非難すると、イスラーム法に対する理解をしないで、宗教の寛容に反するという名前で、非常に宗教的寛容に反するということを私はやっているのではないかと思ったわけです。ともかくイスラームでは常に行為というのは法学によって判断されるということをわかってもらうと非常にイスラーム世界の動きがクリアに見えるのではないかというふうに考えています。
[注1] 講演の語り起こしの全文は以下に収録されている。「イスラームの世界観と宗教対話」『キリスト教と文化研究』(2002年)51-70頁。
[注2] ズィンミー(庇護民)とはイスラーム圏(ダール・イスラーム)に宗教的自治を享受して永代居住が認められた非ムスリムの宗教共同体。
[注3] ムスターミン(居留民)とは、貿易などでイスラーム圏を訪れる1年未満の短期滞在者。
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◉中田考『タリバン 復権の真実』出版記念&アフガン人道支援チャリティ講演会
日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30
場所:「隣町珈琲」 品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
◆なぜタリバンはアフガンを制圧できたか?
◆タリバンは本当に恐怖政治なのか?
◆女性の権利は認められないのか?
◆日本はタリバンといかに関わるべきか?
イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。
参加費:2,000円
※当日別売で新刊『タリバン 復権の真実』(990円)を発売(サイン会あり)
★内田樹氏、橋爪大三郎氏、高橋和夫氏も絶賛!推薦の書
『タリバン 復権の真実』
《内田樹氏 推薦》
「中田先生の論考は、現場にいた人しか書けない生々しいリアリティーと、千年単位で歴史を望見する智者の涼しい叡智を共に含んでいる。」
《橋爪大三郎氏 推薦》
「西側メディアに惑わされるな! 中田先生だけが伝える真実!!」
《高橋和夫氏 推薦》
「タリバンについて1冊だけ読むなら、この本だ!」
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